〜対話が文化になる組織へ〜
渡辺佳菜
一般社団法人
相互尊重コミュニケーション協会
今、価値観が多様化する中で、組織の中でも意見の違いや認識のずれが生じやすくなっていると感じています。私たちの青年会議所でも、役職や年次、立場の違いから、なかなか率直な意見交換が生まれにくく、一人ひとりの想いが十分に共有されないまま運動が進んでしまっている場面があるのではないでしょうか。
本来、青年会議所とは対話を重ね、社会課題に挑み、互いに成長していく組織であるはずです。しかし、「こんなことを言っていいのだろうか」という遠慮や、受け止められ方への不安から、対話がどこか表面的になり、せっかくの想いが行動に結びつかない。そんな状況が生まれてしまっていると、私は感じています。この課題を乗り越えるために、単なる話し方のテクニックではなく、互いを尊重しながら率直に伝え合う、そんな対話の在り方を、皆さんと一緒に学んでいきたいのです。
この事業では、自分の考えや想いを誠実に伝えること、そして同時に、相手の意見をしっかりと受け止める姿勢を育んでいきたいと考えています。「まず相手の意図を受け止め、その上で遠慮せず自分の意見を伝える」。そんな対話の姿勢が、特別なことではなく日常の文化として根付いていく。それが私の目指す姿です。
そして、誰もが関わりやすく、意見を言いやすい風土をつくっていきたい。メンバー一人ひとりが主体的に組織づくりに参画できる那須野ヶ原青年会議所を、皆さんと共に実現していきましょう。
一般社団法人那須野ヶ原青年会議所
人財開発室 室長 吉川翔平
ちゃんと言ったはずなのに、伝わっていなかった
本当はこう思っているのに、なかなか口に出せない
こんな経験、ありませんか?
会議で発言するタイミングを逃したり、部下への指摘をためらっているうちに問題が大きくなったり、言い方がきつくなって相手の表情が曇ったり――。
私たちは毎日たくさんの言葉を交わしています。でも、「ちゃんと伝えて、ちゃんと聴く」ということが、実はとても難しい。そしてそれが難しいことに、多くの人が気づいていません。
はじめまして。相互尊重コミュニケーション協会代表理事の渡辺佳菜です。
私はこれまで、企業研修や講演を通じて、たくさんの経営者やリーダーの方々とお会いしてきました。業種も規模もさまざまですが、皆さんに共通する悩みがあります。
「もっと社員が自発的に意見を出してくれたら」
「お互いに遠慮せず、でも尊重し合える関係を築きたい」
この本は、そんな想いを持つあなたのために書きました。
本書では、相互尊重コミュニケーションの考え方と実践法を5つのステップでお伝えします。
第1章では、相互尊重コミュニケーションとは何かを明確にし、あなた自身のコミュニケーションの傾向を知るワークに取り組みます。
第2章では、すべての対話の土台となる「聴く力」を磨きます。
第3章では、自分の想いを誠実に、かつ相手に届く形で伝える方法を学びます。
第4章では、意見の違いを恐れずに対話を深め、より良い結論を導くスキルを身につけます。
そして第5章では、これらを組織の「文化」として定着させる具体的なアクションプランを描きます。
各章にはすぐに試せるワークを用意しました。読むだけでなく、手を動かし、考え、実践することで、あなたのコミュニケーションは確実に変わります。
この本を読み終わる頃には、あなたの中に一つの確信が生まれているはずです。
「対話が変われば、組織が変わる。組織が変われば、未来が変わる」
―― 渡辺佳菜
さあ、一緒に始めましょう。あなたの組織に、対話の文化を育てる旅を。
ある中小企業の社長さんから、こんな話を聞きました。
「毎週月曜の朝礼で『何でも自由に意見を言ってくれ』と伝えているんです。でも、誰も何も言わない。シーンとした会議室に自分の声だけが響いて、正直つらいんですよ」
一方、その会社の社員さんにこっそり聞いてみると――
「社長は『何でも言え』って言うけど、この前意見を言ったら『それは違う』って即座に否定されたんです。それ以来、言っても無駄だなって」
この二人の間に悪意はありません。社長は本当に意見がほしいと思っているし、社員だって会社をよくしたい気持ちはある。なのに、対話が生まれない。
こうしたすれ違いは、「コミュニケーションの方法」を知らないことから起こります。私たちは学校でも職場でも、国語や算数は習いますが、「人との対話の仕方」をきちんと学ぶ機会はほとんどありません。
だからこそ、ここから一緒に学んでいきましょう。
相互尊重コミュニケーションとは、自分の想いを誠実に伝え、同時に相手の意見を尊重しながら対話を深めていくコミュニケーションのあり方です。
ポイントは2つの軸にあります。
軸1: 自分の想いを誠実に伝える
自分の気持ちや考えをごまかさず、素直に言葉にすること。「こう思っている」「こうしてほしい」と、率直に、しかし穏やかに表現する力です。
軸2: 相手の意見を尊重し、対話を深める
相手の言葉に耳を傾け、たとえ自分と違う意見であっても「そういう考え方もあるんだ」と受け止めること。否定でも迎合でもなく、理解しようとする姿勢です。
この2つの軸が重なるところに、本当の対話が生まれます。どちらか一方だけでは足りません。自分の想いだけを押し通せば衝突になり、相手に合わせてばかりいれば自分が消耗します。両方を大切にすることで、はじめて「お互いが納得できる対話」が実現するのです。
日常のコミュニケーションは、大きく3つのスタイルに分けることができます。あなた自身やまわりの人を思い浮かべながら読んでみてください。
自分の意見や要求を、相手の気持ちを顧みずに押し通すスタイルです。
このスタイルの方は、仕事への情熱や責任感が強い人に多いのも事実です。悪気があるわけではなく、「結果を出さなければ」というプレッシャーが、言葉の強さに表れてしまうのです。
自分の本音を飲み込み、常に相手や場の空気を優先するスタイルです。
調和を大切にする日本の文化では、このスタイルの人がとても多くいます。でも、言いたいことを我慢し続けると、ある日突然限界がきて爆発してしまったり、心身の不調につながったりすることもあります。
自分の想いも相手の想いも、どちらも大切にするスタイルです。
これが、本書で目指す「相互尊重コミュニケーション」のスタイルです。生まれつきの才能ではなく、意識と練習で誰もが身につけられるスキルです。
「コミュニケーションが大事なのはわかっている。でも、売上や事業戦略のほうが優先だ」
そう思われるかもしれません。でも、少し考えてみてください。
戦略を実行するのは人です。新しい事業アイデアを生むのも人です。そして、人が力を発揮できるかどうかは、「この組織で本音を言っても大丈夫だ」と思えるかどうかにかかっています。
近年注目されている心理的安全性という概念があります。「このチームでは、自分の意見を言っても罰せられない、バカにされない」と感じられる状態のことです。Googleの大規模調査「プロジェクト・アリストテレス」では、チームの生産性を左右する最大の要因がこの心理的安全性であることが明らかになりました。
そして、心理的安全性を生み出すのは、まさに相互尊重コミュニケーションです。リーダーが率先して「自分の想いを誠実に伝え、相手の声に耳を傾ける」ことで、組織に対話の文化が根づいていきます。
つまり、コミュニケーションは事業戦略の「前提条件」なのです。
具体的にイメージしてみましょう。部下の提出した報告書にミスがあった場面です。
Afterの例では、上司は問題点を明確に伝えつつ、相手の仕事を認め、具体的なお願いをしています。部下も防衛的にならず、素直に対応できています。
これが、相互尊重コミュニケーションの力です。特別なテクニックではなく、「伝え方の順番と言葉の選び方」を少し変えるだけで、対話の質がまるで変わります。
あなた自身のコミュニケーションの傾向を確認してみましょう。以下の5つの質問に、正直に「Yes」か「No」で答えてください。正解・不正解はありません。今の自分を知ることが目的です。
結果の見方
Q1とQ4が「Yes」、Q5が「Yes」の方: 相互尊重コミュニケーションの素養が十分にあります。本書を読み進めることで、さらに意識的に実践できるようになるでしょう。
Q2が「Yes」の方: 情熱やエネルギーの強さは素晴らしい強みです。第4章の「伝わる話し方」を読むと、その情熱をより効果的に届けるヒントが見つかるはずです。
Q3が「Yes」の方: 周囲への配慮ができる方です。ただ、あなたの意見にも大きな価値があります。第3章では、自分の想いを無理なく表現するための具体的な方法をお伝えします。
Q5が「No」の方: もしかすると、「言いたいことを十分に言えなかった」経験が積み重なっているかもしれません。第2章の「聴く力」と第5章の「対話を深める力」が、あなたの助けになるはずです。
どんな結果でも大丈夫です。大切なのは、「今の自分を知ること」。そこがすべてのスタート地点です。
月曜の朝、デスクに置かれた一通の封筒。嫌な予感は的中しました。入社2年目の山田さんからの退職届です。
「特に不満はないんですが……」
面談でそう言う山田さんの表情は、穏やかなのにどこか諦めたような目をしていました。
厚生労働省の調査によると、大卒新入社員の約3割が3年以内に離職するというデータがあります。中小企業ではその割合はさらに高いとも言われています。「せっかく育てたのに」「うちはそんなにブラックじゃないのに」。そんなやるせなさを感じたことのある方は、きっと少なくないでしょう。
退職理由としてよく挙げられる「人間関係」や「将来が見えない」。これらを一つ掘り下げると、ある共通点が見えてきます。
「聴いてもらえなかった」という感覚です。
若手は決してワガママではありません。むしろ、こう思っています。
つまり、対話の不足が、若手の「ここにいていいのかな」という不安を育ててしまうのです。
では、「聴く」とは具体的にどういうことでしょうか。ここで大切なのは、3つのポイントです。
1. 相手の話を最後まで聴く
途中で「それはね」「いや、そうじゃなくて」と口を挟んでいませんか? 若手が話し始めたら、まずは最後まで聴きましょう。沈黙が続いても大丈夫。「もう少し聴かせて」と促すだけで、相手は安心して話し続けることができます。
2. 否定から入らない
「でも」「だけど」が口ぐせになっていませんか? まずは「なるほど」「そういう考え方もあるね」と受け止めてみてください。
3. 「そう思ったんだね」と受け止める
これは「同意する」こととは違います。相手の気持ちや考えを存在として認めるということです。たったこの一言が、「この人はわかってくれる」という信頼を生みます。
そして、この3つのポイントを実践するために、もう一つ大切なことがあります。
それは「心のゆとり」です。
どんなに「聴こう」と頭で思っていても、自分自身に余裕がなければ、相手の言葉は耳を素通りしてしまいます。次の会議のことが気になっている、締め切りに追われている、昨日のトラブルを引きずっている――そんな状態では、目の前の人の話に本当の意味で向き合うことはできません。
「聴く」とは、テクニックである以前に、自分の内側に相手を受け入れるスペースをつくることです。だからこそ、忙しいときほど意識的に深呼吸をする、5分だけ一人の時間をつくる、完璧を手放して「今日はここまでで大丈夫」と自分に許可を出す。そうした小さなセルフケアが、「ちゃんと聴く」ための土台になります。
相手の話を聴く前に、まず自分の心の声を聴いてあげてください。自分にゆとりがある人は、自然と周りにもゆとりを与えることができるのです。
研修先のある中小企業で、こんなエピソードがありました。入社1年目の佐藤さんが、思い切って業務改善の提案をしたときのこと。以前の上司は「まだ早い」の一言で終わらせていました。しかし、新しい上司の田中さんはこう返しました。
佐藤さんは目を輝かせて説明を続けました。結果的にその提案は一部修正が必要でしたが、佐藤さんは「自分の意見を聴いてもらえた」という経験を得ました。それ以来、佐藤さんは積極的に発言するようになり、チーム全体の雰囲気も明るくなったそうです。
「聴く」を仕組みにする最も効果的な方法が、1on1ミーティングです。相互尊重の姿勢で行う1on1には、3つのステップがあります。
ステップ1: 準備 ── 聴く姿勢を整える
1on1の前に、30秒だけ深呼吸してみてください。パソコンを閉じ、スマホを裏返し、相手に向き合う。それだけで「あなたの話を聴く準備ができていますよ」というメッセージになります。
ステップ2: 実施 ── 相手7割、自分3割で話す
1on1の主役は相手です。「最近どう?」「気になっていることはある?」といったオープンな質問から始めましょう。
ステップ3: まとめ ── 次のアクションを一緒に決める
最後に「今日話してくれたことを踏まえて、次に何ができそう?」と問いかけます。上司が一方的に指示するのではなく、相手の考えを引き出しながら次のステップを決めていきましょう。
大きな改革は必要ありません。明日から始められることがあります。
1. 「おはよう」に名前を添える
「おはよう」を「おはよう、山田さん」に変えるだけ。名前を呼ばれると、人は「自分の存在を認められている」と感じます。
2. 週に1回、5分の「聴く時間」をつくる
まずは5分で十分です。「最近どう?」と声をかけて、ただ聴く。アドバイスしなくても大丈夫。聴いてもらえる体験そのものが、若手の安心感につながります。
3. 「ありがとう」を具体的に伝える
「ありがとう」だけでなく、「あの資料の〇〇の部分、わかりやすくてとても助かったよ」と具体的に伝えましょう。
若手が「この会社にいたい」と思うのは、福利厚生が充実しているからでも、給料が高いからでもありません。「自分はここで大切にされている」と日々感じられるかどうかです。
【ステップ1】最近の若手との会話を1つ思い出してください。
【ステップ2】自分はどれくらい「聴けて」いたか、5段階で自己評価してみましょう。
| 評価 | 状態 |
|---|---|
| 1 | ほぼ自分が話していた |
| 2 | 途中で口を挟むことが多かった |
| 3 | 半分くらいは聴けていた |
| 4 | 相手の話を中心に聴けていた |
| 5 | 最後まで聴き、受け止めることができた |
【ステップ3】次回の対話で試してみたいことを1つ書き出してみましょう。
小さな一歩で大丈夫です。「ちょっとだけ聴き方を変えてみよう」。その意識が、若手との関係を変える第一歩になります。
経営者の方とお話しすると、この言葉を本当によく耳にします。「何度言っても自分から動かない」「いちいち指示しないと仕事が進まない」。
その苛立ちは、よくわかります。忙しい中で一から十まで指示を出すのは、本当に大変なことですから。
でも、少し立ち止まって考えてみてください。その社員が「指示待ち」になったのは、もしかすると指示を待つしかない環境があったからかもしれません。
自主性は、性格の問題ではありません。関わり方の問題です。そして関わり方は、今日から変えることができます。
結論は同じA案ベースかもしれません。でも、部下は「自分で考え、自分の意見が反映された」という経験を得ます。この積み重ねが、自主性を育てるのです。
| 任せる | 放置する | |
|---|---|---|
| 根底にあるもの | 信頼 | 無関心 |
| 関わり方 | 適切なタイミングでフォロー | ノータッチ |
| 対話 | 「どう? 困っていることはない?」 | 「任せたから自分でやって」 |
| 結果への向き合い方 | 一緒に振り返る | 失敗したら叱る |
任せるとは、信頼して委ね、対話でフォローし続けること。「見守っているよ」「いつでも相談してね」というメッセージを、言葉と行動で伝え続けることです。
自主性を育てる最も効果的な方法は、答えを教える代わりに、質問で引き出すことです。
1. オープンクエスチョンで考える余地を生む
「できた?」「やった?」はYes/Noで終わる質問です。代わりに「この件について、どう思う?」「何から始めるのがよさそう?」を使いましょう。
2. 「もし〜だったら?」で可能性を広げる
「もし予算の制約がなかったら、どうしたい?」「もし半年後に大成功していたとしたら、何をしたからだと思う?」。制約を外して自由に発想できる質問です。
3. 「なぜ?」より「何が?」で前向きに掘り下げる
| なぜ?(追い詰める) | 何が?(前向きに掘り下げる) |
|---|---|
| 「なぜ納期に遅れたの?」 | 「何が原因だったと思う?」 |
| 「なぜ確認しなかったの?」 | 「何があれば防げたと思う?」 |
| 「なぜ報告しなかったの?」 | 「何がハードルになっていた?」 |
「なぜ?」が犯人探しになるのに対し、「何が?」は原因と対策を一緒に考える対話を生みます。
相互尊重コミュニケーションは「相手に合わせる」ことではありません。自分の考えも誠実に伝えたうえで、一緒に最善を探ることです。こんなフレーズを覚えておくと便利です。
ポイントは、相手を否定せずに自分の意見を加えること。「でも」ではなく「そのうえで」。「違う」ではなく「加えて」。この小さな言葉の選び方が、対話の質を大きく変えます。
【ステップ1】来週の会議で試したい質問を3つ書き出してください。
【ステップ2】部下に任せたいタスクを1つ選び、対話の進め方をプランニングしましょう。
1週間後にこのページを開いて、結果を振り返ってみてください。大切なのは「完璧にやること」ではなく、「今までと少し違うやり方を試してみること」です。
経営者やリーダーの皆さん、あなたが何気なく口にした一言を、社員がずっと覚えていた――そんな経験はありませんか?
「去年の忘年会で社長が言った言葉、今でも心に残っています」
組織のトップやリーダーの言葉は、良くも悪くも、周囲の人の心に深く刻まれます。だからこそ、「どう伝えるか」を少し意識するだけで、組織の空気はガラリと変わります。
「伝える」は、自分が話すという行為。主語は「私」です。
「伝わる」は、相手の心に届くという結果。主語は「相手」です。
「ちゃんと言ったのに動いてくれない」と感じるとき、もしかすると「伝えた」けれど「伝わっていない」だけかもしれません。それは聞き手の問題ではなく、伝え方にまだ工夫の余地があるということなのです。
1. 自分の体験から語る(ストーリーテリング)
人の心を動かすのは、正論よりも物語です。「お客様第一主義を徹底しましょう」と言うよりも、「先日、あるお客様からこんなお電話をいただきました。正直、胸が熱くなりました」と語る方が、聞いている人の心にすっと入っていきます。
2. 相手の立場に立って言葉を選ぶ
同じ内容でも、言葉の選び方で届き方はまったく変わります。相手は今、何を感じているだろう? その想像力こそが、「伝わる」話し方の核心です。
3. 余白を残す(全部言わない勇気)
すべてを説明しきるのではなく、少し余白を残す。すると聞き手は自分の頭で考え始めます。「みんなはどう思いますか?」この一言で余白を作るだけで、一方通行のスピーチが、双方向の対話に変わります。
最初の30秒で心をつかむ
人の集中力は冒頭に最も高まります。結論から入る、意外な問いかけをする、自分の失敗談から始める。冒頭にひと工夫するだけで、場の空気が変わります。
「私は〜と思います」Iメッセージの活用
「普通はこうするべきだ」ではなく、「私はこうしたいと思っています」と伝える。主語を「私」にするだけで、押しつけがましさがなくなり、相手も自分の意見を言いやすくなります。
相手の反応を見ながら対話する
聞いている人の表情を見ましょう。うなずいている人がいればその方向を向いて話す。首をかしげている人がいれば補足する。話し手と聞き手の間にキャッチボールが生まれると、その場の一体感がぐっと高まります。
違いは3つです。体験を語っている。自分の気持ちをIメッセージで伝えている。そして、最後に余白を残して相手に委ねている。特別な話術は必要ありません。
明日の朝礼やミーティングで、3分間のスピーチをすると想像してみてください。
Step 1: 伝えたいメッセージを1つ選ぶ
今、チームに最も伝えたいことは何ですか?
Step 2: 体験談を1つ紐づける
そのメッセージに関連する、あなた自身の体験を1つ思い出してください。
Step 3: 相手に持ち帰ってほしいことを1行で
あなたの話を聞いた人に、たった1つだけ覚えていてほしいことは?
このシートを埋めたら、ぜひ一度声に出して読んでみてください。「伝えたいこと」「体験」「持ち帰ってほしいこと」の3つが揃っていれば、あなたの言葉はきっと届きます。
会議で意見がぶつかったとき、あなたはどんな気持ちになりますか? 「ここで引いたら負けだ」「自分の考えを通さなければ」――そんなふうに、つい力が入ってしまうことはありませんか?
実は、多くの経営者やリーダーが「意見の対立」を無意識に避けています。でも、本音を飲み込んだ対話からは、本当に良いアイデアは生まれません。
相互尊重コミュニケーションが目指すのは、「対立を避ける」ことでも「相手を論破する」ことでもありません。意見の違いを活かして、一緒に前に進むことです。
ステップ1: まず自分の感情を認める
「今、自分はイライラしているな」「不安を感じているな」と、感情にそっと名前をつけてみてください。それだけで、感情に振り回されにくくなります。自分の感情を認めることは、弱さではなく、対話に向かうための最初の一歩です。
ステップ2: 相手の背景を想像する
「この人は何を大切にしているのだろう?」「どんな経験から、この意見にたどり着いたのだろう?」。反対意見を言う人にも、その人なりの理由と善意があります。
ステップ3: 共通のゴールを見つける
「私たちが本当に実現したいことは何でしょうか?」。こう問いかけることで、対立は「方法論の違い」に変わります。敵同士ではなく、同じゴールを目指す仲間として向き合えます。
ステップ4: 「一緒に考えよう」で前に進む
「じゃあ、どうすればお互いが納得できる形になるか、一緒に考えませんか?」。この言葉には魔法のような力があります。「あなた対わたし」の構図が、「わたしたち対課題」の構図に変わるからです。
SBI法で具体的に伝える
たとえば、「最近ちょっと態度が気になるよ」ではなく、「今日の会議で(状況)、新人の田中さんの提案に対してすぐに『それは無理だ』と言ったよね(行動)。田中さん、それ以降ずっと黙ってしまっていたよ(影響)」と伝えます。
ポジティブフィードバックを3倍にする
人は、ネガティブな言葉をポジティブな言葉の3倍の強さで受け止めると言われています。改善のフィードバック1つに対して、良いところを3つ以上伝えることを意識してみてください。
改善フィードバックは「提案」として伝える
「ここがダメだ」ではなく、「こうしてみたらどうかな?」と提案の形で伝えます。命令ではなく提案。評価ではなく応援。
経営者自身が対話のモデルになる
「対話を大切にしよう」と100回言うよりも、経営者自身が対話の姿勢を見せることの方がはるかに効果的です。会議で自分から「私はこう思うけど、みんなはどう?」と問いかける。部下の話を最後まで聴く。間違いを認めて「ごめん、そのとおりだね」と言える。
小さな成功体験を積み重ねる
いきなり組織全体を変えようとする必要はありません。まずは、あなたと身近な一人の間で対話を実践してみてください。たった5分の対話でも、相手の表情が和らいだり、思わぬ本音が聞けたりします。
仕組み化する
形から入ることに抵抗がある方もいるかもしれません。でも、「対話の時間」を意図的に作ることで、最初は形式的でも、やがて自然な文化になっていきます。
この本で学んだことを、具体的な行動に落とし込みましょう。「これならできそう」と思えることから始めてください。
今週やりたいこと(1つだけ)
今月やりたいこと(1つだけ)
3ヶ月後の理想の組織の姿
3ヶ月後、あなたの組織がどんな状態になっていたら最高ですか? 自由に想像して書いてみてください。
このアクションプランは、あなただけのロードマップです。時々見返して「あ、やってみよう」と思い出すことが大切です。対話の文化は、一日では生まれません。でも、あなたの小さな一歩が、確実にチームを変えていきます。
あなたのコミュニケーションタイプを診断し、
タイプに合わせたトレーニングを日々実践できるWebアプリです。
本書で学んだことを、日常の中で無理なく続けていくためのパートナーとして、ぜひご活用ください。
最後までお読みくださり、本当にありがとうございます。
この本を手に取ってくださったあなたは、きっと「もっと良いコミュニケーションをしたい」「もっと良い組織をつくりたい」という想いを持っている方だと思います。その想いがあるだけで、もう大きな一歩を踏み出しています。
本書では、相互尊重コミュニケーションの考え方から始まり、聴く力、伝える力、そして対話を通じて組織の文化をつくるところまで、一緒に歩んできました。
ここでお伝えしたことは、どれも特別な才能やテクニックを必要とするものではありません。意識を少し変えること。言葉を少し選ぶこと。相手の話にもう少しだけ耳を傾けること。その小さな積み重ねが、やがて大きな変化を生みます。
「対話が文化になる組織」――それは、誰もが安心して自分の想いを伝えられる場所。意見の違いを恐れず、むしろ違いを楽しめる場所。そして、一人ひとりが「ここにいていいんだ」と感じられる場所です。
そんな組織は、強いです。変化に柔軟で、困難にもしなやかに立ち向かえます。なぜなら、そこには信頼で結ばれた「対話の土台」があるからです。
完璧にやる必要はありません。まずは、この本のワークで書いた「今週やりたいこと」を1つ、やってみてください。うまくいかなくても大丈夫。やってみたこと自体が、もう成功です。
あなたの組織には、あなたにしか育てられない文化があります。あなたの言葉で、あなたの対話で、その文化を育ててください。
心から、応援しています。
―― 渡辺佳菜
吉川翔平プロフィール
Syohei Yoshikawa
有限会社油屋商店 代表取締役
一般社団法人那須野ヶ原青年会議所 副理事長 兼 人財開発室 室長
公益社団法人日本青年会議所 関東地区協議会 ブランド力向上委員会 副委員長
栃木県大田原市の葬儀社3代目として、2024年10月に代表取締役就任。
代表就任後、新ブランド「トモリヤ」を立ち上げ、従来の斎場に加え、家族葬ホールや樹木葬霊園を展開している。
当社の強みは、葬儀で終わらせないこと。ご家族のこれからに寄り添い続ける姿勢にある。その想いを形にするため、手元供養ギャラリーの開設準備も進めている。
これから事業拡大・組織拡大を加速していく。その基盤として相互尊重コミュニケーションを学び、チームで価値を生み出せる組織へ。地域とともに挑戦を続けている。
著者プロフィール
Kana Watanabe
一般社団法人相互尊重コミュニケーション協会代表理事
株式会社CHEERFUL WOMAN 代表取締役
山梨県西桂町町議会議員
「すべての人が、互いの個性と尊厳を尊重しあい、自分らしく輝ける社会を実現する」を協会理念とし、子育て、キャリア形成、コミュニケーション、レジリエンス育成を主軸に、延べ10,000名以上の受講生と向き合い、講演・研修・実践支援を全国で展開。
人生・キャリア・人間関係の再構築を伴走型で支援することで、個人の内面変容と社会構造の両面からアプローチする実践スタイルを提唱しながら、現場に根ざした知見を積み重ねる。
ビジネス・政治・家庭という異なる領域を横断しながらも「自己表現」「傾聴と共感」「境界線」「問い」を4原則とし、一貫して「相互尊重を基盤としたコミュニケーション」の重要性を提唱。
立場や役割に縛られず、自ら選択し続ける生き方を体現する姿は、働く母親のみならず、多様な生き方を模索する人々にとって新しいロールモデルとして多くの共感を集めている。
2026年「相互尊重コミュニケーション」を土台としたコミュニケーションスキルアップ本をすばる舎より出版予定。