相互尊重
コミュニケーション
理論
mutual respect communication
No. 2
自己表現

相互尊重コミュニケーション講座
第2回「自己表現」

学習目標

この講座を終えると、次の3つができるようになります:

  1. 今の自分の気持ちにぴったりくる言葉を見つけて、「私は○○を感じています」と言える
  2. 「あなたは」で始める伝え方を「私は」で始める伝え方(Iメッセージ)に変えられる
  3. 「私の取扱説明書」を書ける
「自分の気持ちに名前をつけられる人が、相手にも伝えられる」

第1回で学んだ「気持ちに名前をつける」力を覚えていますか? 今回はその力をさらに発展させます。自分の気持ちに気づくだけでなく、それを相手に伝えるステップに進みましょう。

01

前回の宿題シェア

まず、今日の心の余裕は何%ですか? 隣の人と10秒で共有してください。

前回の宿題は「ただ聴く実践日記を3日間つける」でした。隣の人と2人組になり、1人2分ずつシェアしましょう。

宿題をやれなかった人も責めない。「気にかけていただけでOK」と伝える。


アイスブレイク:「私は実は○○な人です」

  1. 付箋に「私は実は___な人です」を3つ書きます
  2. 3〜4人のグループで順番に発表します
  3. 聞いた人は、気になったものに質問してOK
ポイント

自分のことを「私は」で語る練習です。これが今日学ぶIメッセージ(「私は」で始める伝え方)の最初の一歩です。

02

講義1:自分のことを知ることが、伝える力の土台になる

第1回では「聴く力」を学びました。今日は「伝える力」です。でも、この2つは別々のものではありません。

どちらも「自分の気持ちに気づく力」という同じ根っこから伸びています。自分の気持ちに正直に気づける人だけが、それを言葉にして伝えることもできるのです。

なぜ「自分を知ること」が先なのか

「自分の気持ちを伝えたい」と思った時、最初にやるべきことは言葉を探すことではありません。「今、私は何を感じているんだろう?」と自分に聞いてみることです。

こんな経験はありませんか?

これは「伝える力が低い」のではありません。自分の気持ちをつかまえる力が弱くなっているだけです。


本当の気持ちと外に出す自分を一致させる

心理学者カール・ロジャーズは、自分の内側で感じていることと、外に出している言葉や態度が一致していることがとても大切だと言いました。

状態心の中外に出した言葉
一致「悲しい」「悲しいです」
ズレている「悲しい」「大丈夫です(笑顔)」
ズレている「本当は怒っている」「別にいいよ」

多くの人は子どもの頃から「泣いちゃダメ」「怒っちゃダメ」と言われて育ちます。その結果、大人になった時に自分が何を感じているのか分からない状態になりやすいのです。ズレていることに気づけただけで、大きな一歩です。

03

自分を好きになることから始めよう

気持ちを伝える前に、もうひとつ大切な土台があります。それは「自分はここにいていいんだ」と思えることです。

多くの人が気づかないうちに、心の奥でこんなパターンを持っています。

4つの「どうせ私は」パターン

  1. 「どうせ私は愛されない」
    だから相手の愛情を何度も確かめてしまう
  2. 「どうせ私は役に立たないと愛されない」
    だから休めないほどがんばりすぎてしまう
  3. 「どうせ私は見捨てられる」
    だから傷つく前に自分から関係を切ってしまう
  4. 「どうせ私は比べられている」
    だから本当の自分を出せない

どれかに「あ、私かも」と思った方もいるかもしれません。

これは、小さい頃に満たされなかった気持ちが、大人になった今も関係のパターンとして出ているだけです。あなたが悪いわけではありません。

自分の中にあるパターンに気づくこと。それだけで、パターンに振り回されにくくなります。

04
ワーク:ちっちゃな自分への手紙(15分)

小さい頃の自分を思い出してください。がんばっていた自分、さみしかった自分、泣きたかった自分。

今の自分から、その小さな自分に手紙を書いてみましょう。

書き出しのヒント

小さな自分への手紙:

今日の自分に100点をあげてください。ここにいるだけで十分です。

涙が出る方がいても焦らない。感情に気づけた証拠として受け止める。「正解はありません。思うままに書いてください」と伝える。

05
ワーク1:気持ちに名前をつける+自己一致チェック

パート1:気持ちに名前をつける

「イヤだ」を「悲しい」「くやしい」「さみしい」と細かく分けられる人ほど、気持ちに振り回されにくくなります。

やり方
  1. 目を閉じて30秒。「今、体のどこに何を感じる?」と自分に聞く
  2. ワークシート1の感情リストから、今の気持ちに近いものを3つ選んで○をつける
  3. 隣の人と2人組で「私は今、○○を感じています」とシェア

パート2:自己一致チェック

やり方
  1. ワークシート1の自己一致チェックに記入。最近の場面を2つ思い出して、心の中の気持ちと外に出した言葉が合っていたか振り返る
  2. ペアで「一致していた場面」「ズレていた場面」を1つずつシェア

「ズレていた=ダメ」ではない。「ズレに気づけたこと自体がすごい」と伝える。「分からない」も立派な答え。

06

講義2:Iメッセージで伝える

3つの伝え方

タイプ特徴
攻撃的自分の意見を押しつける「なんで片付けないの!」
受け身自分の気持ちを押し殺す「何でもいいよ...」
お互いを大切にする伝え方自分も相手も尊重する「私は散らかっていると落ち着かないの」

3つ目の「お互いを大切にする伝え方」が、今日学ぶIメッセージです。


「あなたは」で始める伝え方と「私は」で始める伝え方

「あなたは」で始める伝え方(YOUメッセージ)は、相手を責める言い方になりがちです。

「私は」で始める伝え方(Iメッセージ)は、自分の気持ちを伝える言い方です。

「あなたは」で話しかけられると、相手は「責められた!」と感じて心を閉ざします。「私は」で話しかけると、相手は「気持ちを聴いている」と感じて耳を傾けてくれます。

07

Iメッセージの3ステップ

「(過去:事実)のとき、私は(現在:気持ち)を感じた。だから(未来:お願い)」
ステップ内容
1(過去)起きた事実・出来事「約束の時間に遅れていたよね」
2(現在)今の自分の気持ち「私は少し心配になった」
3(未来)これからの希望・お願い「次は事前に連絡もらえると嬉しいな」

3ステップの考え方

相互尊重コミュニケーション愛(I)メッセージ

型を使う前に:自分に聞いてみる

  1. 「今、私の体のどこに何を感じている?」
  2. 「この感覚に名前をつけるなら、何だろう?」
  3. 「私が本当に伝えたいことは、何だろう?」

日常の事例

子どもに対して

パートナーに対して

08

Iメッセージの大切な注意点

ケンカにならない話の始め方(ギアチェンジ)

Iメッセージを伝えた後、相手が怒ったり言い訳を始めたら、すぐに「聴くモード」に切り替えましょう

あなた:「約束の時間に来なかった時、私は心配になったの」(Iメッセージ)

相手:「だって仕方なかったんだよ!」(反発)

あなた:「何かあったんだね」(聴くモードに切り替え)

Iメッセージは「伝えて終わり」ではなく、「伝えた後に聴く」がセットです。

相手を変えるための道具ではないこと

「Iメッセージで言えば相手が変わるはず」と期待すると、それは形を変えた「あなたは」メッセージになります。大切なのは自分の気持ちを正直に話すこと。相手がどう受け取るかは、相手の自由です。


心の中のひとりごとに気づこう

私たちは気づかないうちに「どうせ伝わらない」「言ったら嫌われる」と心の中でつぶやいています。このひとりごとが、言葉を飲み込ませてしまいます。

ネガティブなひとりごと書き換えてみると
「どうせ分かってもらえない」「私の言葉には、伝わる力がある」
「言ったら嫌われる」「正直に伝えることで、関係は深まる」
「うまく言えないから黙ろう」「完璧でなくても、伝えようとすることに意味がある」
09
ワーク2:YOUメッセージ → Iメッセージ変換+ロールプレイ

日常シーンカード

カード場面YOUメッセージ
1子どもが部屋を散らかしている「何回言ったら分かるの!片付けなさい!」
2夫/妻が約束を忘れた「あなたはいつもそう。私のことなんかどうでもいいんでしょ」
3友人にドタキャンされた「ありえない。人の時間を何だと思ってるの」
4母親が勝手に予定を決めた「なんで勝手に決めるの!」
やり方(4〜5人グループ)
  1. カードから自分に関係が深いものを2枚選ぶ
  2. まず自分に聞く:「この場面で"私"は本当は何を感じている?」
  3. Iメッセージに変換して、ワークシート2に書く
  4. 一番うまくできた変換を、グループ内で声に出して言ってみる
  5. 聴き手は相手役として受け止める。残りは良かった点を伝える
10

講義3:体の感覚に聴いてみるワーク(フォーカシング)

ワーク2で「気持ち」の欄が一番難しかったという人、多いのではないでしょうか。「怒り」と書いたけど、本当に怒りだったのかな? もっとぴったりくる言葉があるかも?

その「もっとぴったりくる気持ち」を見つける方法が、体の感覚に聴いてみるワークです。

私たちの気持ちは、頭だけでなく体の中にも感覚として現れています

頭で考えると「こう感じるべき」とフィルターがかかります。でも体はウソをつきません。体が先に「やだな」って教えてくれる仕組みがあるのです。体の声を聴くことは、本当の気持ちに気づく近道です。

体の感覚に聴く5ステップ

ステップやること
1. 間を取る目を閉じて、体全体に注意を向ける
2. 感覚を見つける「体のどこかに何か感じるところはあるかな?」
3. 名前をつけるぴったりくる言葉やイメージを探す
4. 確かめる「○○な感じ...合ってるかな?」と体に聞く
5. 受け取る「そうだったんだね」とそのまま受け入れる
11

自分への問いかけで気持ちを深掘りする

体の感覚に気づいた後、こんな質問を自分に投げかけてみてください。

深さ問いかけの例気づけること
第1層:気持ち「今、何を感じている?」怒り、悲しみ、不安など
第2層:願い「その気持ちの奥に、どんな"こうしてほしい"がある?」認めてほしい、安心したいなど
第3層:大切なもの「それは私にとって、なぜ大切なの?」自分が本当に大切にしていること

例:

第1層:「イライラしている」

第2層:「自分の時間を大切にしてほしい」

第3層:「私は"お互いを大切にする関係"を大切にしているんだ」

第3層まで届いた言葉でIメッセージを伝えると、相手の心に深く届きます。

自分の内側とつながった言葉は、相手の内側にも届く。
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ワーク3:体の感覚に聴いてみる体験+取扱説明書

パート1:ガイド付きワーク

途中でつらくなったら、いつでも目を開けて大丈夫です。自分のペースを大切にしてください。

楽な姿勢で座ってください。目を閉じるか、どこか一点を見つめてください。

3回深呼吸をしましょう。吸って...吐いて...。

今、体全体に意識を向けてみてください。頭のてっぺんから足の先まで。

どこかに何か感じるところはありますか? ざわざわ、キュッ、重い、軽い...どんな感覚でも構いません。

その感覚のそばに、そっと座ってみてください。急いで意味を探さなくて大丈夫です。

静かに問いかけてみてください。「あなたは、何を伝えようとしているの?」

答えが来ても来なくても大丈夫です。問いかけたこと自体に意味があります。

最後に、その感覚に「気づかせてくれてありがとう」と心の中で声をかけてみてください。

準備ができたら、ゆっくり目を開けてください。

13

パート2:私の取扱説明書

体の感覚に聴いた体験をもとに、「私の取扱説明書」をワークシート3に書きます。自分を「製品」だと思って、取扱説明書を書くイメージです。

書くこと:

  1. こういう時に調子がいいです
    • 例:朝の静かな時間がある日、認めてもらえた時
  2. こういう時に不調になります
    • 例:急かされた時、否定から入られた時
  3. こういう扱い方をしてくれると嬉しいです
    • 例:まず話を聴いてほしい、結論を急がないでほしい
  4. 注意事項(やりがちなクセ)
    • 例:疲れると「別にいい」と言いがち
  5. 私のトリセツ、一言で言うと
    • 例:「まず聴いてくれたら、自分から話し出すタイプ」

パート3:全体シェア

希望者から「私の取扱説明書」をひとつだけ紹介してもらいます。楽しい雰囲気で、「自分のことを笑い飛ばせる」くらいが理想です。

14

まとめ

今日学んだこと

1. 伝える前に、まず自分を知る

2. 「私は」で始める伝え方(Iメッセージ)

3. 体の感覚に聴いてみる

「自分の気持ちに名前をつけられる人が、相手にも伝えられる」
15

宿題

「Iメッセージ変換日記」を3つ記録する

日常の中で「あなたは」メッセージを使いそうになった場面を見つけて、Iメッセージに言い換えてみてください。

段階的にチャレンジ:

言えなくてもOKです。「こう言えたらよかったな」と書くだけで大丈夫です。

もうひとつ、小さな宿題:

毎晩、寝る前にこの問いを自分に投げかけてください:

「今日、私が一番伝えたかったけど伝えられなかったことは何だろう?」

答えを書く必要はありません。問いかけるだけでOKです。


次回予告:第3回「境界線」

「伝えたいけど、言ったら相手を傷つけるかも」「断りたいけど断れない」。第3回では、自分の気持ちと相手の気持ちの「境界線」を引く方法を学びます。今日の宿題で「言いたいけど言えなかった場面」にも気づいてみてください。それが第3回への最高の準備です。

16

ワークシート

ワークシート1:気持ちに名前をつける+自己一致チェック

目を閉じて30秒。「今、体のどこに何を感じている?」と問いかけてから始めてください。

今の気持ちに近いものを3つ選んで○をつけてください。

うれしい系悲しい系怒り系不安系穏やか系
わくわくさみしいイライラそわそわほっとする
誇らしい切ないもどかしいドキドキ満たされている
楽しみむなしいくやしい心配落ち着いている
感謝がっかり腹が立つ焦りのんびり
充実孤独うんざり緊張安心
希望申し訳ないくやしい不安心地よい

選んだ3つと、その理由:

1. 「私は今、 を感じています。なぜなら 

2. 「私は今、 を感じています。なぜなら 

3. 「私は今、 を感じています。なぜなら 

17
ワークシート1(つづき):自己一致チェック

最近の場面を2つ思い出して、記入してください。

【場面1】

いつ・誰と・何があった:

本当はどう感じていた?:

実際にどう言った/した?:

一致してた?:はい / いいえ

【場面2】

いつ・誰と・何があった:

本当はどう感じていた?:

実際にどう言った/した?:

一致してた?:はい / いいえ

18
ワークシート2:YOUメッセージ → Iメッセージ変換メモ

カードのYOUメッセージを、Iメッセージに変換して書いてください。
変換前に自分に聞いてみよう:「この場面で"私"は本当は何を感じている?」

カード番号: 

「(過去:事実) のとき、

私は(現在:気持ち) を感じた。

だから(未来:お願い) 

カード番号: 

「(過去:事実) のとき、

私は(現在:気持ち) を感じた。

だから(未来:お願い) 

一番うまくできた変換:

19
ワークシート3:私の取扱説明書

自分を「製品」だと思って、取扱説明書を書いてみましょう。

製品名(あなたの名前): 

1. こういう時に調子がいいです

2. こういう時に不調になります

3. こういう扱い方をしてくれると嬉しいです

4. 注意事項(やりがちなクセ)

5. 私のトリセツ、一言で言うと:

20
ワークシート4:Iメッセージ変換日記【宿題】

次回までに3つ記録してきてください。

【1つ目】あとから振り返って書く

日付:__月__日

場面:

Iメッセージに言い換えると?

「(過去:事実) のとき、私は(現在:気持ち) を感じた。だから(未来:お願い) 

【2つ目】その場で心の中で変換してみる

日付:__月__日

場面:

Iメッセージに言い換えると?

「(過去:事実) のとき、私は(現在:気持ち) を感じた。だから(未来:お願い) 

21
ワークシート4(つづき):Iメッセージ変換日記【宿題】

【3つ目】実際に声に出して使ってみる

日付:__月__日

場面:

実際に言えた?:はい / いいえ

言えた場合 → 相手の反応は?:

言えなかった場合 → 何がブレーキになった?:

Iメッセージ:

「(過去:事実) のとき、私は(現在:気持ち) を感じた。だから(未来:お願い) 

やってみて気づいたこと:

22
振り返りシート

今日の講座を振り返って、記入してください。

1. 今日一番印象に残ったことは?

2. 自分について新しく気づいたことは?

3. 明日からやってみたいことは?(1つだけ)

4. 今日、自分の気持ちを伝えようとした時に"これは言っていいのかな"と迷った瞬間はありましたか?
(第3回「境界線」への準備)

5. 今日の心の余裕は何%?
 

6. 講師へのメッセージ(何でもどうぞ)

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参考文献

この講座の内容をもっと深く学びたい方へ、おすすめの本を紹介します。

著者書名
カール・ロジャーズ『カウンセリングと心理療法』
トマス・ゴードン『親業 -- 子どもの考える力をのばす親子関係のつくり方』
平木典子『アサーション入門 -- 自分も相手も大切にする自己表現法』
マーシャル・ローゼンバーグ『NVC 人と人との関係にいのちを吹き込む法』
ダニエル・ゴールマン『EQ こころの知性とは』
ユージン・ジェンドリン『フォーカシング』
© 一般社団法人 相互尊重コミュニケーション協会

相互尊重コミュニケーション協会 講師:渡辺佳菜

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